大信州ものがたり
02手いっぱいの会
「大信州」を代表する銘柄「手いっぱい」の名を冠するこの会は、これまでに長野、松本、東京、札幌で開催してきた酒の会です。酒造りに携わる蔵人たちがアイデアを寄せ合い、蔵人総出で自ら醸した酒を紹介し、飲んでいただいて参りました。
はじまりは1994年のこと。ひとりでも多くの方に「大信州を体験してほしい」という思いに尽きました。そのエネルギーの源は、負のイメージを払拭しなければならないという使命感にほかなりません。
昭和40年代、わたしたちの出荷先の大半が東京でした。造れば売れる時代、とにかく量を造り、造りすぎた結果、熾烈な価格競争のなかで安さを求められ、土下座をして買ってもらう日々。そんな商売が楽しいはずもなく、正しいはずもない。そして、現在の品質を重視した〝手いっぱい〟の酒造りに舵を切ることにしたのです。下原多津栄大杜氏のもと、酒質は年々変化していきます。しかし、一度、お客様のなかに確立されてしまった「大信州=大量生産の安酒」というイメージは簡単に払拭できるものではありませんでした。
そこで企画したのが「手いっぱいの会」です。長野会場からはじまり、3年後からは松本でも開催するようになりました。2015年から開催している東京では300人もの方にご来場いただいています。集客への不安を抱くなか、「必ず集める」と背中を押してくださったのは長年に渡って新しい酒質を熱狂的に支持してきてくださった飲食店の皆様でした。飲食店の皆様と連れ立ってご来場くださる常連客の皆様に感謝するばかりです。2018年には念願の札幌でも開催しました。一番売れないときに、酒質・流通・仕事…さまざまなことを学ばせていただいたのが札幌の酒販店の皆様です。この皆様こそが新しい大信州の市場を札幌でつくり、お客様に広げてくださいました。もっと早く札幌で「手いっぱいの会」をという思いはありましたが、ようやく蔵人全員で行けるまでになり、お披露目をすることができました。
「大量生産の安酒」の時代を経たからこそ、今のわたしたちの酒造りはどこよりも美味さに執着し、きちんと〝酒が口をきく〟ことを目指しています。「手いっぱいの会」も、酒が語り、訴え、次の一杯につながることが願いです。近年では、大信州を愛飲してくださる方が集い、さらに熱狂するための場にもなってきました。もちろん初めての方にもおいでいただき、率直なご意見をぶつけていただくとともに、蔵人の思いに耳を傾けていただけたら幸いです。お客様からの言葉が次の造りへの活力となり、さらなる美味さを目指す力となっています。