大信州ものがたり
03契約農家と
二人三脚の歩み
米について下原多津栄大杜氏が大切にしていたことは、玄米で仕入れること、そして自家精米することです。玄米を見て米の良し悪しを判断し、ときには「全然だめだから返してこい」と、厳しい態度を見せたこともありました。そのやりとりのなかで、地域や農家によって米の品質に差があることに気づき、全量、長野県内の契約栽培米に切り替えたのです。下原大杜氏の教えに基づき、やはり玄米で仕入れ、自分たちの目で米の様子を確認しながら丁寧に自家精米しています。
契約栽培は木島平村の岳農さんからはじまり、松本市内のやまだふぁーむさん、浜農場さん、田美屋さん、おひさまファームさん、百瀬さん、安曇野市の細田農産さんと、地元の篤農家のつながりで広がりました。その後、東御市八重原の太陽と大地さん、白倉ファームさん、笹屋農園さんとの契約栽培もはじまりました。現在はこれら10軒の契約農家と「大信州二十四粒の会」を組織し、秋・冬の研究会や春の勉強会など年4回、全員が集い、米作りに取り組んでいます。地域は違えども、農家が仲間としてライバルとして切磋琢磨する姿はありがたく、頼もしい限りです。
研究会では来季の作付の検討のほか、米や酒の出来を農家ごとに報告します。それができるのも、わたしたちの造りが農家ごと・品種ごとに自家精米して蒸し、ひとつのタンクで仕込んで瓶詰めまでする「シングルカスク」だからこそです。米の使い心地、できあがった酒の評価をすべて契約農家と共有し、来年はもっと良い米・良い酒にするためのひとつの指針とすることはもちろん、お客様にはそれぞれの農家と米の個性を楽しんでいただけます。
さらに日頃から契約農家の皆さんには無理難題をお願いしています。たとえば米粒のなかに亀裂ができる胴割米を「ゼロに」とお願いした際には、「無理です」と即答されました。それほど難しいことですが、勉強会で学び、水の管理、収穫の時期、乾燥方法など、考えうる限りを尽くして模索し、技術を磨き、何年もかけて糸口を見つけてくださいました。甲斐あって胴割米は減りつつあります。
わたしたちが安心して無理難題を投げかけられるのは、こうして真摯な姿勢と高い技術で応えてくれる契約農家の皆さんに絶対的な信頼を寄せているからです。そして、契約農家の皆さんがわたしたちの姿勢に共鳴し、「大信州」の米を栽培していることにプライドを持ち、米を作るにとどまらず、ともに〝至高の酒〟を造り、お客様に届けることを目指してくださるからこそです。その存在は、わたしたちを奮い立たせてくれる、かけがえのない財産です。わたしたちの酒が蔵人だけでなく、農家と二人三脚で造る酒であることを、心から誇りに思っています。